« 【音楽】四谷メビウスの夜~ナミ&エルザ・ライブ | トップページ | 【音楽】下北沢屋根裏ライブ »

2009年11月 7日 (土)

【ミステリー】江戸川乱歩が選んだ海外ミステリーBEST10

前回、江戸川乱歩の功績として、海外ミステリーの紹介に尽力したことを述べた。では、乱歩はどのような作品をBESTとして選んでいるのか。

海外ミステリーに関しては、戦前から21世紀に至るまで、幾度となく識者、読者によるランキングがされており、乱歩もその都度、ランキングを発表しているが、今日、もっとも知られているのが、1947年、「随筆探偵小説」の附録「世界探偵小説傑作表」に掲載された、黄金時代BEST10である。
この10作品は、後に集英社文庫から「乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10」として刊行されている。もちろん、早川や創元をはじめ複数の出版社からも刊行されており、現在も新刊で入手できる。

ランキングは、以下のとおり。

① 赤毛のレドメイン家  イーデン・フィルポッツ

② 黄色い部屋の謎  ガストン・ルルー

③ 僧正殺人事件  S・S・ヴァン・ダイン

④ Yの悲劇  エラリー・クイーン

⑤ トレント最後の事件  E・C・ベントリー

⑥ アクロイド殺し  アガサ・クリスティー

⑦ 帽子収集狂事件  ジョン・ディクスン・カー

⑧ 赤い館の秘密  A・A・ミルン

⑨ 樽  F・W・クロフツ

⑩ ナイン・テイラーズ  ドロシー・L・セイヤーズ

いずれ劣らぬ名作ぞろいである。わが国における海外ミステリーの評価に、乱歩が多大な影響を及ぼしたことは、前回も述べたが、このBEST10を見れば納得できる。

ただ、現在においては、「赤毛のレドメイン家」が1位であることに疑問の声が聞かれるが、これは、乱歩の好みに合うということと、戦前には評価が高かったように、当時としては画期的な作品であったということだろう。
カーには、いくつかの秀作があるにもかかわらず、なぜ「帽子収集狂事件」なのか?これは、このBEST10が、黄金時代に限定しており、おおむね1913~34年の作品を選んでいる(「黄色い部屋の謎」は1907年)からで、カーの代表作は1935年以降の発表である。同様に、クリスティーの「そして誰もいなくなった」は1939年であるため、ここには入っていない。
この時代でも、セイヤーズを選んでいるところが乱歩らしい。番外として、ロジャー・スカーレット「エンジェル家の殺人」も選んでいる。

また、乱歩は、1951年、「幻影城」に「1935年以降のBEST10」を発表している。1935年ころから、本格黄金時代を抜け、本格もの一辺倒ではない新しい時代に突入したことを強調する意味もあって、1935年以降に限定したのであろう。このころから台頭してきた新ジャンルから多く選んでいる。参考までに、そのジャンルを付記した。

殺意  フランシス・アイルズ  <倒叙>

叔母殺人事件  リチャード・ハル  <倒叙>

判事への花束  マージェリー・アリンガム  <新本格>

クロイドン発12時30分  F・W・クロフツ  <倒叙>

ある詩人への挽歌  マイクル・イネス  <新本格>

野獣死すべし  ニコラス・ブレイク  <新本格>

大いなる眠り  レイモンド・チャンドラー  <ハードボイルド>

十二人の評決  レイモンド・ポストゲイト  <法廷>

検屍裁判-インクエスト  パーシヴァル・ワイルド  <法廷>

幻の女  ウィリアム・アイリッシュ  <サスペンス>

このBEST10については、これが順位であるかのような表記があちこちに見られるが、単に年代順であるという説が有力である。年代順としては、多少入れ違っている部分もあるが、こちらの説を採用し、順位は付けなかった。

黄金時代BEST10に比べると、かなりマイナーな感は否めない。現在でも、常に上位にランクインするのは、「幻の女」くらいで、倒叙ものの三作品は「三大倒叙」と呼ばれているが、このジャンル自体がマイナーである。「ある詩人への挽歌」に至っては、1993年になって、やっと邦訳されたほどである。

Photo マイクル・イネス「ある詩人への挽歌」 Lament for a Maker,1938
現代教養文庫(1993年) 「乱歩選 世界第5位」の文字が見える。出版社の廃業により、新刊の入手不可。

法廷ものの二作品については、こちらを参照。このころから台頭することになるハードボイルドをあまり選ばなかったのは、乱歩の好みだろう。

1935年以降に発表された、クリスティーの「そして誰もいなくなった」や、カーの「火刑法廷」「三つの棺」などを選ばなかったのも、乱歩が、このランキングによって、ミステリーの質的変化を強調したかったからだと思われる。
本格黄金時代には、謎解きに重点が置かれたのに対し、このころから、情景描写や心理描写といったものがさかんに描かれるようになる。いわば、フーダニット一辺倒から、ハウダニット、ホワイダニットにも興味が持たれるようになってきた、ということだろう。

黄金時代の本格ものの定義は、「謎」と「推理」であったが、その後の本格(乱歩は「新本格」と称した)には、動機や背景といった人間の内面に焦点が当てられる作品が多くなった。
また、警察ものに代表されるように、推理より捜査という行動力によって事件を解決する、という作品も目立ってきた。

倒叙ものは、はじめから犯人はわかっているので、フーダニットの要素はないし、サスペンスには、ほとんど推理の要素がない作品も多い。

この流れを、わが国に当てはめてみると面白い。本格黄金時代は、わが国では大正~昭和初期にあたり、1935年といえば、第二次世界大戦に向かう混乱期である。
現在も読み続けられている国内のミステリーは、ほとんどが戦後の作品である。いわば、わが国のミステリーには、本格黄金時代に匹敵するものはほとんどないといっても過言ではない。

あれほど本格にこだわった横溝正史にしても、謎解きに重点を置きながら、人間関係や動機といったものも強調されており、「新本格」に近いであろう。
その後に登場した松本清張の「社会派」も、どちらかというと人間関係に焦点が当てられるものである。現代の人気作家にしても、赤川次郎は心理描写、山村美紗は情景描写が巧みであり、西村京太郎の作品は行動力が命である。

私が、海外の本格黄金時代の作品を薦める理由は、このあたりにある。まず、この時代の作品を読んだ上で、その後の作品を読めば、より一層、ミステリーの奥深さを実感することができるからである。

|

« 【音楽】四谷メビウスの夜~ナミ&エルザ・ライブ | トップページ | 【音楽】下北沢屋根裏ライブ »

ミステリー」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/546626/46693909

この記事へのトラックバック一覧です: 【ミステリー】江戸川乱歩が選んだ海外ミステリーBEST10:

« 【音楽】四谷メビウスの夜~ナミ&エルザ・ライブ | トップページ | 【音楽】下北沢屋根裏ライブ »